構体系(Structure Subsystem)は、人工衛星のすべてのコンポーネントを物理的に支持し、過酷な打ち上げ環境や宇宙環境から内部のミッション機器およびバス機器を保護するための強固な骨組みを提供するサブシステムである。地上でのハンドリング、ロケットによる打ち上げ、そして軌道上での運用にいたる全フェーズにおいて、構造的な完全性を維持する役割を担う。
概要
人工衛星がそのミッションを達成するためには、内部の電子基板、センサ、アクチュエータ、推進タンクなどのあらゆる部品が、常に正しい位置に保持されていなければならない。構体系に求められる最も過酷な要求は、ロケットによる打ち上げ時に発生する凄まじい加速度、激しい機械的振動、および音響荷重に耐え抜くことである。これらの一過性の巨大な負荷(打上げ環境)と、軌道上での微小重力・熱歪み環境の双方において、各機器が設計通りの性能を発揮できるよう、物理的なプラットフォーム(筐体・フレーム)を創り出すことが構体系の根幹となる。
構造設計と強度評価
構造設計を具現化するにあたり、まずはロケット側から課される厳しい限界値や設計条件をクリアしなければならない。設計において考慮すべき最大の荷重は、運用中に予測される最大の物理的負荷である制限荷重(LL:Limit Load)として定義される。この制限荷重に、予期せぬ不確定要素を担保するための安全係数(保証荷重や極限荷重に応じた係数)を掛け合わせることで設計荷重を算出する。
構体系は、この設計荷重に対して十分な破壊抵抗力(破壊しないこと)を示す強度と、過度に形が変形しないための高い剛性を両立させる必要がある。有限要素法(FEM)などを用いた応力解析の現場では、多軸応力状態にある材料の降伏・破壊特性を評価するために、せん断エネルギー説に基づくミーゼス応力(等価応力)が広く算出される。解析によって得られた最大応力と、材料が持つ許容応力を比較し、設計の健全性を示すインジケータである安全余裕(MS:Margin of Safety)がすべての部位において正(\(MS > 0\))となるように筐体の肉厚や形状を決定していく。
宇宙構造材料の選定
限られたロケットの打ち上げ能力の中で衛星の質量を最小化(軽量化)しつつ、高い強度と剛性を得るために、構体系には軽量かつ比強度・比剛性に優れた特殊な材料が選定される。
最も広く実績があり、基本構成材として採用されるのがアルミニウム合金(ジュラルミンなど)である。加工性が良く、熱伝導率も高いため熱制御の面でも有利という特性を持つ。さらに、極限の軽量化と高剛性が要求される大型のアタッチメントやパネル、高精度な志向性が求められるミッション機器の支持構造には、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)などの複合材料が多用される。特に、繊維の並ぶ方向に対して圧倒的な引張強度・弾性率を発揮する1方向強化材を、設計上の主荷重方向に合わせて何層も最適な角度で積層・配置することにより、金属材料を遥かに凌駕する超軽量・高剛性かつ熱変形(熱膨張係数)がほぼゼロに近い理想的な宇宙構造物を構築することが一般的となっている。
構造検証試験
設計・製造された構体系が、ロケットからの剛性要求(ロケット本体の制御系と共振しないための固有振動数要求)を満たし、過酷な打上げ環境を生き残れるかを実機で直接証明するプロセスが、一連の環境試験である。
完成した構造に対しては、必ず大規模な振動試験が実施される。試験では、低周波の機械的入力に対する機体全体の健全性や固有振動数を確認する「正弦波振動試験(サイン振動試験)」と、ロケットのエンジン噴射や空気力学的剥離に起因する広帯域のランダムな振動を模した「ランデム振動試験」が各軸に対して厳密に印加される。これらの試験によって、解析モデルの妥当性を確認(モーダルコリレーション)するとともに、ボルトの緩み、局所的な応力集中によるクラック、内部コンポーネントへの不具合の伝播が起きないことを確認し、初めて宇宙への切符を手にすることができる。